佐多芳彦の服装の歴史学
(2017年5月13日朝日新聞より、画像のクリックで拡大します。)
小袖腰巻
NHKの大河ドラマ「おんな城主 直虎」では、柴咲コウさん演じる井伊直虎が、この時代の武家女性らしく、当時のファッションをさっそうと着こなしている。第15回あたりから小袖腰巻(こしまき)姿という、一風変わった着方をしていることにお気づきであろうか。
小袖腰巻姿
浅井長政夫入像参照
(お市の方)
「直虎」で実現、当時の着こなし
最上衣である打掛(うちかけ)小袖の両腕を抜き、腰に帯で結んで固定しており、下に着た小袖があらわになっている。大河ドラマをしてめったに目にしない服装で、今回、ようやく実現した。この番組の風俗考証を担当している者として、スタッフに感謝してやまない。
○ ○ ○
直虎の時代、すなわち中世末期の戦国時代、武士や庶民女性は小袖を着ていた。時代の主役であった武士の婦人たちは、小袖の服装文化を大いに発展させた。この小袖腰巻姿は、そのひとつといえる。
本来、小袖を何枚も重ね、その上に打掛小袖と呼ばれる上着専用の小袖を着ることが武士の婦人の正装だった。しかし肌着としての小袖の上にさらに2、3枚の小袖を重ねるので、夏揚などは、暑くていられない。そこで最上衣となる小袖や打掛小袖の上半身を脱いで、腰巻とした。威儀を保ちつつ、着方で暑さを和らげようとする策が小袖腰巻姿といえるだろう。
季節は初夏を迎え、暑い日も増えてきた。シャツを脱ぎ、手に持つのは面倒なので、上半身はTシャツ、腰に脱いだシャツを巻いている方もいるだろう。これも発想としては、小袖腰巻姿と同じだ。
残念なことに、中世期の小.袖の服装文化は、着付け方の詳細が文献としてほとんど残っていない。屏風絵や肖像画などの画像史料から推測するよりない。絵なんて絵空事だから信用に値しないという人もいる。ところが、かなり正確なものもたくさんある。
たとえば、織田信長の妹であるお市の肖像画(浅井長政夫入像)が高野山持明院に伝わる。白の小袖を肌着として、その上に間着(あいぎ)として白地に赤い横縞(よこじま)の小袖など2、3枚を着こめた小袖重ねである。最上衣として赤地に大きめの文様を配した豪華な打掛小袖を着ているが、これを脱いで、腰巻にしている。
○ ○ ○
数年前、岐阜市歴史博物館で復元された衣服を使って中世の男女のファッションショーが行われた。この博物館とは、以前に展示のリニューアルをお手伝いして以来のお付き合いだ。筆者は小袖腰巻姿をリクエストした。
ボランティアの方々が前掲のお市の肖像画を参考に、手際よく誉付けていく。筆者が肖像画を見ながら「ここにしわがありますが、実際に着せると入りませんね。」と言うと、彼らは「こうするとどう?」と裾回りをいじった。す,ると、とたんに肖像画どおりの位置に折りじわができた。中世の小袖腰巻姿が復元できたうえ、お市の肖像画の服装表現の正確さも確認できた。実りあるイベントだった。
(立正大教授)
持明院所蔵原本
テレビゲームに登場するお市の方の各イメージ
・カプコン「戦国BASARA」
・カプコン「鬼武者2(「小谷のお邑」という名で登場)」
・コーエーテクモ「戦国無双」
・ガンホー・オンライン・エンターテイメント「パズドラ」
・アクセルゲームエンターテインメント「ワールド・クロス・サーガ」
それぞれ衣装の考察と言う点ではかなり無茶苦茶かもしれません。ゲームキャラクターとしては、「可愛ければよし」という面もあるのかもしれませんが、、、。